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劇場アニメ『映画大好きポンポさん』の感想(ネタバレあり)

pompo-the-cinephile.com

久々にいい映画を見たので感想を書きたい。

面白いポイント

まず、「映画作り」にフォーカスしたアニメ映画であること。「映画大好き」の名に惹かれて見に来た人間全員を納得させる出来になっていると思う。創作をテーマにした作品は世の中にごまんとあるが、映画作りの過程を映画好きのために丁寧に描いていると思った。プロデューサー・脚本のポンポさん、監督・編集のジーン、役者のナタリーの視点で、映画作りにおけるハードルとそれを乗り越える過程が描かれているので、映画がどのように成り立っているのかが点ではなく線で見える。それだけでも、映画が好きな人は楽しめるのではないだろうか。

特に、劇中2回存在するクライマックスが”資金繰り”と"編集"に割かれるとは思えなかった。が、映画はチームで作られるもので(これは劇中でポンポさんも語っている)、"映画作りを描く映画として画面映えしないシーン"も当然映画作りでは重要な工程であり、それから逃げずに、というかむしろ本作の要として立たせているのが、この映画が映画好きに向けられた映画であることの証明であるように思える。

通常では画面映えしないシーンをクライマックスにおけるのは、展開にある程度の虚構性が許され(本作におけるアランのプレゼンなど)、ただ映しているだけでは地味なシーンをカッコいい画と音楽で装飾できるアニメーション(ジーン覚醒~編集)ならではだとも思う。

 

「題材が良い」だけでは魅力的な映画にはなりえないが、映画作りの描き方ももちろん良い。前述の"資金繰り"と"編集"にクライマックスを乗せたという話のディテールになるが、驚くべきことに前者のシーンの主役はぽっと出のモブ銀行員のアランである。一方で、後者の映画作りの神髄を担うのは主人公のジーン。この二名の対比がとても良い。映画を作る側に落ちた人間(一つのことに熱中し他のすべてを犠牲にした人間)と、映画を作る側になれなかった(=強引な言い方をすると上手く生きていけるが熱中が出来なかった)人間両者にスポットライトを当て、かつ両者の活躍を賞賛し、一つの作品が出来上がるというシナリオがとても好きだ。私は熱中できなった側の人間でただの映画好きでしかないが、そちらの人間の活躍の仕方も描いているというのは、創作に憧れ創作が出来なかった人間への救いであるような気がしている。反対に、創作する側の人間が、あるいはそうでなくても何かに熱中し続けた人間が大切なもののために切ってきた経験や関係を肯定する、後ろ向きと思われる現実を前向きに捉えるためのメッセージも込められている。両者は対局でありながらも、ブレイクスルーのきっかけは犠牲を払うことへの覚悟であるという共通点もあり、「都合の良いこと言ってんなぁ」と思わせないのも素晴らしい。テーマの扱い方も丁寧であり、メッセージも明確なのだ。

 

あとは、細かいが大切な点。作品の端々に存在するキャラクターのセリフや心情の描き方が上手い。本作はポンポさんが映画作りの天才である故に、「映画はこうあるべきである」という論や議論は多発しているが、そのあるべき論は「映画大好きポンポさん」という作品で忠実に守られているので、観客は面白い映画を見ているんだという答え合わせをしながら作品を追うことになる。

また、本作は作品を作る人間、あるいは作る人間を後押しする人間の感情の動きを、創作する過程に乗じてドラマチックに描いているが、人間の感情の機微を言葉という分かりやすいツールで増幅させて語らせるのはダサい。が、アニメーションという媒体を選んだ以上ある程度の分かりやすさは必要だが、そこで「作中作」がとても良い仕事をしている。作中作の人物の動きやシナリオにキャラクターの心情を乗せることで、作中作がどのようなストーリーラインなのかを無視せず(映画作りを描くのだから無視はできない)、かつ自然にキャラクターの気持ちを動きを描いている。

 

キャストと劇中歌について

若い才能の選択と挑戦を描いているので、キャストもこだわっているのだろうと視聴後ググってみたがどんぴしゃで、主人公のジーンの声を当てている清水尋也さんは声優初挑戦(上手かった)、作中作のヒロインのナタリーを演じる大谷凜香も(これはいい意味でのっぺりとした棒っぽい声色でキャラにあっていた)劇場アニメーション初挑戦とのこと。私が好きだったのでエンドロールを見ていて気付いたのだが、カンザキイオリ氏が楽曲の制作を行っており、劇中歌のうちの1曲は花譜が歌っている。主題歌は新人歌手が歌っているとのこと。

全体的にフレッシュな印象だったのは、キャスティングのお陰でもあったと思う。プロデューサーが良い仕事をしたのだろう(劇中で大活躍を見せたポンポさんの手腕に劣らない腕を見せている)。

 

今回のオチ

僕がこの記事で一番気に入っているのは原稿が2000文字ってところですね。