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【結物語】いい最終回(仮)だった。(感想:ネタバレあり)

 

結物語 (講談社BOX)

結物語 (講談社BOX)

 

 

結物語」を読了。過去に(↓みたいな)記事を書いているのだけれど、僕は西尾維新作品が好きで、そのはじまりは「物語シリーズ」だった。

 

midoumairu.hatenablog.com

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で、その西尾維新を知ったきっかけである物語シリーズが、「結物語」で完璧な終わり方をしていて感動したので、その気持ちを書き起こしたい。

どこが好きだったのか、的な備忘録なので、後半普通にネタバレしていくぞ。

 

あらすじ(まだネタバレなし)

アマゾンから引用します。

内容紹介

「私は何も知りませんよ。あなたが知っているんです――阿良々木警部補」
怪異譚となる前の“風説”を取り締まる、直江津署風説課で働きはじめた警察官・阿良々木暦
町を離れた、ひたぎと翼。
二十三歳になった三人が選ぶ道と、暦が最後に伝える想いとは……?
知れば知るほど、知らないことが増えていく――これぞ現代の怪異! 怪異! 怪異!

永遠に、この恋心はほどけない。

内容(「BOOK」データベースより)

怪異譚となる前の“風説”を取り締まる直江津署風説課で働きはじめた警察官・阿良々木暦。町を離れた、ひたぎと翼。二十三歳になった三人が選ぶ道と、暦が最後に伝える想いとは…?知れば知るほど、知らないことが増えていく―これぞ現代の怪異!

 

暦は23歳(新卒の社会人の年齢ですね)、キャリアの警察官になりました。で、警察官として街の不思議なこと(=怪異が関わっていると思われること)を解決していくといった話。

 

ちなみに、今作は「ぜんかマーメイド」「のぞみゴーレム」「みとめウルフ」「つづらヒューマン」とサブタイトルがついているが、彼女らは全員、風説課の先輩警察官たちである。

しかし、決して彼女らがその話の中心人物になっているわけではなく、各話の中心人物は今まで物語シリーズに出てきていたキャラクター達なので、そこは「物語シリーズ」のファンの皆さん方、安心してほしい。

ちなみに、全て暦君の一人称小説となっている。主人公は総じて暦だ(原点に返ってきたね)。

 

結物語」の魅力はどこか。(まだネタバレなし)

大人になって、登場人物たちが高校生時代からどのように変化したのかを楽しめること。彼らは少なからず変化していて、それでいて彼女らの個性は失われていない。彼らの成長を感じられる作品となっている。

 

物語シリーズの原作を読んでいた人は分かるかもだけど、「化物語」から「青春はxxxxxxない」とキャッチコピーがついていたが(「青春は」と頭についてるのを徹底していたのは初期の方だけど)、「結物語」はその散々物語シリーズで謳っていた「青春」の終わりを明確に描いている。ちょっとしたノスタルジーに浸れるわけだ。

 

その「青春の終わり」の魅力を説明していきたい。

阿良々木くんが大人に(以下ネタバレ)

僕が「結物語」を読んでいて悲しくなったのが、阿良々木君が大人になってしまったことだ。

 

まず、物語シリーズの代名詞ともいえた、彼のキレッキレのセクハラ発言がほとんどない。その名残を見せることはあったが、軽く上司に突っ込まれる程度のゆるゆるな下ネタでしかなくなってしまった。

ロリコンでもシスコンでも変態でもない、警察官としての阿良々木暦となってしまったのである。

 

また、自らを犠牲にしてまですべてを拾おうとしたお人よし過ぎる彼もいなくなってしまった。ある程度「折り合い」と言うものを学び、無茶をするような真似はしなくなった。

 

こういった阿良々木君が大人になった描写は地の文で記された彼の考え方の至るところで反映されているのだが、それでも彼らしい部分が一切合切なくなってしまっているわけではないので、安心して話を読み進めることが出来る。

 

例えば、全歌さんが溺れたときに周りが見えなくなって必死になってしまう姿とか(ヒロインは助けないと気が済まない彼の気の良さは失われていない)。

ひたぎさんへの思いの強さとか。

 

そういう彼の核となっている部分が失われていないのは好印象。バランスよく成長した阿良々木君を描けている。

 

ちなみに、八九寺真宵の現在を描かなかったのはポイントが高い。「家に帰りたくない者に見える」かつての「迷い牛」で今の神である八九寺真宵。阿良々木君が彼女に出逢わないということで、彼自身の迷いのなさ、地に足がついている様子を伝えるのは滅茶苦茶うまいなあと感じた。

 

大ヒロイン、羽川翼戦場ヶ原ひたぎの未来

結物語」には成長したヒロインたちが続々と登場するが、「物語シリーズ」屈指の名ヒロイン羽川翼戦場ヶ原ひたぎの描き方が特に良かったので、そこもピックアップしたい。

 

ちなみに、ヒロインズの未来をまとめるとこんな感じ。

神原駿河

 スポーツドクターを目指している

阿良々木火憐

 高校卒業後警察官に

忍野扇

 年齢変わらず高校に住み着く。

千石撫子

 漫画家

阿良々木月火

 海外の大学へ入学するも、退学。ダンススクールに入る予定。

老倉育

地方公務員。

 

それぞれキャラクターの特徴をとらえているなあと思う。

怪我をした名スポーツ選手がスポーツドクターを目指し、正義の鉄拳を振りかざした者はそれを職業にし、漫画家を志した者は夢を掴み、自由奔放な妹はいつまで経っても自由奔放。

 

で、ここから先が本題。

羽川翼

テロリストと称され、世界のパワーバランスを崩すほどの人間となってしまう。国境線をなくすことを目標にしている。

 

彼女のエピソードは「みとめウルフ」で描かれるのだけれど、そんな有名人となってしまった羽川翼が、自分が自分であった証拠を隠滅するために、日本に帰ってくるという話。

阿良々木君にも会いに来るのだけれど、その羽川翼はダミーの存在で、目的は阿良々木君が所有していた羽川翼に関連付けられるもの(下着とかだね)を処分することだった、というオチ。

 

この話の〆方が素晴らしくて、阿良々木君は地の文でこんなことを言っている。

「今の僕が今の羽川にとってどうでもいい男で、今の僕は最高に幸せだ。」

むやみにハーレムを作っていて、誰しも見境なく救っていた阿良々木君の変化が明確に表れている一文であり、かつて溺愛していた阿良々木暦を眼中から完璧に消してしまう天才羽川翼の異常性あるいはリアルを描いた一文でもある。

「今の」をやたら強調しているのも良い。「かつて」があったことを意識せざるを得ないから。阿良々木暦羽川翼も、昔のままではいられなかったという事実を突きつけている。

 

何て素敵なしめくくりだろう、と思っていたんだけど、その後「結物語」を締めくくる最後のエピソード「つづらヒューマン」の〆はそれをさらに上回っていたから油断できない。

で、それが我らが正ヒロイン戦場ヶ原ひたぎさんとのエピソードである。

 

戦場ヶ原ひたぎ

外資系の企業に就職し海外で働いている。暦とは遠距離恋愛だが、将来の話し合いの結果「づづらヒューマン」で破局(過去に何度かで別れたりよりを戻したりを繰り返しているけど)。

 

オチは、暦が風説課の研修後、海外に行けるように上司である葛に打診し、ひたぎが日本に戻ってくるように上司を説得させたというすれ違いで終わる。結局二人とも一度別れを切り出したものの、相手のことを思って自ら居住地を変える覚悟を見せた・・・という微笑ましいエピソードだ。

 

で、何が最高だったかと言うと、ラストシーン、ひたぎが日本に来て日本への転勤を言い渡した時の暦とひたぎのやり取りである。

暦が「I love you」と言い、それに対してひたぎが「暦、蕩れ」と返す。

 

これはこれは。「化物語」から物語シリーズを読んでいた人にとっては感動のやり取りである。

かつてひたぎが告白した際のセリフを暦が言い、かつて告白の返事として暦が放った「蕩れ」をひたぎが返すのだ。

お互いの決め台詞を奪って愛情を伝えあっているんだぜ? ラブラブすぎて言葉も出ねーよ。

 

離れたりくっついたりを繰り返していた彼らが、そういった今までの積み重ねを思い起こさせるような方法でまたくっついたという完璧なエンディング。

まだ続くのに「結」なの?という心無い印象を持っていた読む前の僕に、想像以上の感動を与えてくれた。

余談

僕はあまり作者のあとがきを好んで読まない人なのだけれど、もしかしたらと思い、今回は読んでみた。

で、僕が望んだ答えがちゃんと記されていた。

西尾維新さんは、物語シリーズを書き始めた頃にはこういったエンディングを想定していなかったようだ。まぁこれだけ刊行しているシリーズだ、連載当初から「結物語」のエンディングまで想定しているわけあるまい。

 

だとしたら、過去シリーズの使い方が上手いなあと思う。100%趣味で書かれたと謳われているが、西尾維新さんのこのシリーズへの思い入れの強さみたいのを僕は感じることが出来た。一時は離れかけたけど、これからも読み続けちゃうなあと改めて思った次第。

 

で、次は「モンスターシーズン」が開幕するとのことで、「忍物語」が2017年に発売するとのこと。

キスショットの名付け親の話や、羽川さんとドラマツルギーとのエピソードはまだ書き切れていないので、そりゃ終わらないなあとは思いつつも。

 

結物語」こそが最高の最終回を飾る作品だと僕は思っている。