【掟上今日子の家計簿】今日子先生の推理小説講座(感想:後半ネタバレあり)
読んだ。
西尾維新作品の中でも、僕は彼の書く推理小説が好きなものだから、「忘却探偵シリーズ」がヒットしているようで喜ばしい限りである。その証拠に、2014年に初刊行されてから、もはやシリーズで9作発売されている。2年と半年程度で、9冊。西尾維新の描くスピードを鑑みれば納得の刊行ペースなのだろうが、それにしたって出版社の後押しがなければ市場に出回ることもないだろう。
隠館厄介氏と同じく、私もまた「(西尾維新の)探偵を呼んでくれ!」と今日子さんを待ちわびていた。
だって、戯言シリーズは途中からバトル小説になっちゃうし(西尾維新さんが書いた作品で一番好きなのは「クビシメロマンチスト」だ)。
世界シリーズは、すっかり刊行しなくなっちゃったし。
美少年シリーズは、推理小説ではあるが、謎解きを主体にしたシリーズではないと僕は判断していし。(あれは微少年探偵団の活動を微笑ましく見守るキャラ萌え小説である。瞳島眉美が大好きだ)
忘却探偵シリーズで「西尾維新的推理小説」が次々と市場に供給されているのは、喜ばしい限りである。
さて、閑話休題。
忘却探偵シリーズの記事を初めて書くものだから、前置きが長くなってしまった。
今日は「忘却探偵シリーズ」第7作目の「掟上今日子の家計簿」について記事を書いていくぞ。
ちなみに、なぜ最新作の「掟上今日子の裏表紙」にしなかったのかというと。
( ↑つい数日前に発売されたばっかり!)
単純に、まだ読んでいないからである。本を買わない図書館ユーザーは、最新作を読むのがどうしても遅くなってしまう。ブログを書く者としては致命的な失陥だが、稼ぎが少ない平社員なのだ、仕方があるまい。
あとは、「家計簿」と「婚姻届」が忘却探偵シリーズの中でも印象に残っているから、という理由もある。いずれ「婚姻届」の感想も書くこととしよう。
↑書いた。
ではようやく。本編の話に移るぞ。
あらすじ
「家計簿」は独立する短編4作で構成されている。今回の一人称は4作とも全て刑事なので、隠館氏の出番はない。
4作のタイトルはこちら。
「掟上今日子の誰がために(クイボノ)」
「掟上今日子の心理実験」
「置手紙今日の筆跡鑑定」
アマゾンの「内容紹介」が指しているのは「筆跡鑑定」の内容であり、「家計簿」一押しが「筆跡鑑定」であることがうかがえる。
内容紹介
眠るたび記憶がリセットされる名探偵・掟上今日子。
引き受けた事件は即日解決の彼女のもとに、今日も悩める刑事からの難題が舞い込んだ。
呼び出されたのはなぜか、事件現場ではなく遊園地。依頼は、ある事件の容疑者より速く、巨大な脱出ゲームをクリアすることで……?
美人でおしゃれでお金が大好き。忘却探偵・今日子さんのタイムリミット・ミステリー!内容(「BOOK」データベースより)
眠るたび記憶がリセットされる名探偵・掟上今日子。引き受けた事件は即日解決の彼女のもとに、今日も悩める刑事からの難題が舞い込んだ。呼び出されたのはなぜか、事件現場ではなく遊園地。依頼は、ある事件の容疑者より速く、巨大な脱出ゲームをクリアすることで…?名探偵vs.容疑者の「最速」の脱出ゲーム、開幕!
なお、「心理実験」と「筆跡鑑定」は書下ろしで、「誰がために」と「叙述トリック」は初出がメフィストとなっている。
今回、僕が記事に起こしたい内容は、「誰がために」と「叙述トリック」についてだ。
「推理小説とは何か?」を丁寧に説明した作品(まだネタバレなし)
なぜ、「誰がために」と「叙述トリック」が気に入ったのか。
それは、私が知らない推理小説の用語が取り上げられ、丁寧に今日子さんが解説してくれたからである。物語として面白いのはもちろんのこと、「へーそうなんだ」と知的欲求を満たしてくれる二重の意味での面白さが「家計簿」にはあった。
今日子さんが教壇に立ち、私のような「推理小説はよくわからんが、とりあえず好きだ」という無知のファンに対して、丁寧に推理小説のあれこれを教えてくれる。
例えるならば、そんな感じの小説だった。
もう少し具体的に言うと
◇「誰がために」
まぁこれはストレートに、「クイボノ」という推理小説用語を説明してくれていて、それが事件解決に繋がっている。
「クイボノ」とは事件によって誰が利益を得たかを考える推理の方法なんだとか。犯人を考えながら推理小説を読みたい派の人は、こういうのを覚えておくと楽しいかもしれない(あいにく僕は違う人だ)。
ちなみに、「ワイダイット」という用語も出てくる。「なぜやったか。」推理小説の基本的な用語であるらしいが、僕は初めて知った。
◇「叙述トリック」
ストレートに、今日子さんが刑事(推理小説には明るくない)に叙述トリックのパターンをひたすらに挙げていき、説明する話である(計⑭まである)。まぁそのパターンというのは読んでみてのお楽しみとしておこう。
僕はこの話が特に好きで、もはや事件の解決よりも14つの叙述トリックのパターンを説明するパート長すぎて、全体の主題となってしまっている。つまり、「犯人を当てる」「事件のトリックを暴く」が二の次になっている。
こういうやりたい放題な作品を読むと、西尾維新作品が好きだーとなってしまうのが、従順なファンの弱いところだ。
解決編の放棄。「叙述トリック」の犯人は誰なのか(ここからネタバレ)
続けて「叙述トリック」の話をしたい。
この話、オチがつかないのだ。トリックだけを暴いて、犯人は分からないまま終わる。
「あまりにも意外な犯人だった」と記載があり、それで終わり。
つまりは、我々読者に解決編を任せたのである。そんな推理小説があってたまるか!(世の中にはたくさんあるのかもしれないけれど、僕がそんなのに出逢ったのは初めてだ)
概要を説明すると、被害者が死亡時に持っていたスマートフォンに表示されていた電子書籍(正確には、表示されてた電子書籍そのものではなく、同タイトルの紙の書籍だったが)と電卓の数字を組み合わせると、ダイイングメッセージになっている、といったものだ。
当然、ダイイングメッセージを解読するための書籍は我々の手元にないし、本文中の内容をもとに推理をするしかない。ダイイングメッセージの性質上、氏名が5文字の人物とは予測できるので、登場人物表の中から該当人物を探せばいいだけ。
漢字5文字の人物は複数名いたが、幸いにも音が5文字の人物は1名のみ。犯人は軽音楽部の「雪井美和」さんだということは想像がつくのだが・・・。
しかし、登場人物表に現れている人物が犯人では、「あまりにも意外な犯人」とはなりえない。おそらく別の解があるはず。
考えうる可能性としては
◇ダイイングメッセージが記しているのは、名前ではなかったが、犯人だと特定できる表記だった。
例えば、複数犯なら「すいりけん(=推理小説研究会)」とか、叙述トリックの一要素にあった、あだ名とか。
◇登場人物表(=刑事が今日子さんの腕に書いたリスト)に書き漏れがあり、その人物であった。
とかがあるけれど・・・。にしても納得がいかないな。
今日子さんが叙述トリックの講座を長々としてくれたわけだから、おそらく叙述トリックが仕掛けられているんだろうけど、「そもそも叙述トリックと見せかけておいて叙述トリックではない」という叙述トリックさえ存在しうる。八方ふさがりだ。
考えうる可能性をブログとかを通じて探してみたけれど、しっくりくる答えはなかったなあ。
推理小説にわかな僕でさえ、こうやって思考を巡らせたのだから、「掟上今日子の叙述トリック」は読者に考えさせるために存在した作品と言っても良いのかもしれない。西尾維新さんの狙いがそこにあるのならば、まんまと僕は術中にはまっているわけだ。
「叙述トリック」からの「心理実験」の繋ぎの上手さ(ネタバレ)
「叙述トリック」で頭を使って、ぼやーっと続けて「心理実験」を読み進めていくと後悔することになる。
というのも、「心理実験」は割と納得感のある「叙述トリック」が使われており、それが話のオチに綺麗に繋がっている。既存の作品「叙述トリック」に続けて、書き下ろした「心理実験」に叙述トリックを使っているのがお上手。叙述トリックを強烈に意識して読み進めるわけだから、「こうきたかー」と読者は膝を叩くはず。ぼやーっと呼んでいるよりはずっと、納得のいくオチに仕上がるはずなのだ。
残念ながら僕はそんな風に頭を使わずに読んでしまったのだが。それこそ本書の記憶を忘却してしまいたい、と後悔した。
今回のオチ
「筆跡鑑定」については、「なるほどいつも通りだ」と読み進めていっただけなので、特に記載はしないことにした。本書の目玉エピソードなのに、なんかごめんなさい。
そういえば新作の「裏表紙」、スペシャル両面カバー仕様となっているようだ。
「叙述トリック」に「外回りの誤読」がありましたが、そんな仕掛けがあったら、面白いね。
こういうギミックがあると、図書館じゃなくて購入して読みたくなるんだよなあ。とにかく、期待。