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【ファースト・マン】ワーカーホリック・ゴズリング(感想 : ネタバレあり)

firstman.jp

 

見てきたぜ。

ラ・ラ・ランドデイミアン・チャゼル監督×ライアン・ゴズリングな作品。

本作は人類で初めて月面に降り立った人物「ニール・アームストロング」を主演のライアン・ゴズリングが演じており、おおよそ史実に基づいた作品となっている(史実を正確に知らないので、どこまで脚色されているかはわからない)。

 

なので(というのが正確なのかは定かではないが)、「セッション」や「ラ・ラ・ランド」のようにドラマチックな見せ場はない分、とても手堅い作品になっている。「ニール・アームストロング」という人物と、彼の周囲(特に家族)との関係が濃密に描かれていて、ライアン・ゴズリングの演技に酔いしれるような作品になっていた。

とはいっても、広大な宇宙の世界を描く映画である。第91回アカデミー賞の録音賞・音響編集賞・視覚効果賞・美術賞を受賞しているだけあって、ビジュアルや音響も楽しめる映画だった。僕の趣味バイアスは間違いなくかかっているのだけれど、音の使い方も素敵。

 

ということで、ぼちぼち感想を書く。ネタバレありです。

ちなみに公式サイトの「ストーリー」に本作のあらすじが丁寧に書かれているので、

 

周囲の人間の死を重ねて目が死んでいくライアン・ゴズリング

ニールがNASAジェミニ計画(簡単に言うと、月面に降り立つ「アポロ計画」の布石となった宇宙に人を送り込む計画、詳細はググって。)に応募するところから物語が始まる。

アポロ計画を成功させ、地球に降りたって家族と再会して物語は終わるのだが、その過程でニールの心の弾性がどんどん失われていく。本作の一番の見どころは、彼の人間性の変化だと僕は思う。

 

ニールは壮大な宇宙への計画を二度も成功させる幸運な人物でありながらも、その分抱えている影が濃い。ジェミニ計画に応募する直前、彼が愛する娘カレンを病気で失い、以降も職業柄親しかった同僚を次々と失っていく。

当然カレンを失った際に彼は涙を流し、ジェミニ計画の直前に同僚を失った際にも葬儀の場で故人の悪口を言う男に怒りを向けるなど、大切な人間の死と向き合う心がしっかりとあったのだが、アポロ計画で3人の宇宙飛行士が亡くなったときから彼の表情が明確に変わる。

アポロ計画の悲劇を電話で聞いたニールは、無意識に力が入ってしまい手に持っていたグラスを割ってしまうのだが、流血した手を冷静にナフキンで処理するところから完璧にスイッチが入っていた。

税金の無駄遣いという世間の逆風も取り合わず、訓練中にケガをしても大したことないと切り捨て、犠牲を払うことについての意見は「この段階で考えるには遅すぎる(既に多くの犠牲が出ていたため)」。極めつけはアポロ11号で月に向かう前、家族との会話をせずに淡々と家から出ていこうとする。

もはやニールが見ているのは月に向かうというミッションだけだった。死んだ目で淡々とミッションをこなす様、前半と後半での人間性の違いを綺麗に演じきったライアンゴズリングは見ていて気持ちが良かった。

 

「セッション」「ラ・ラ・ランド」と目標に向けて大切なものを犠牲にする作品を生み出してきたデイミアン・チャゼル監督の強みがここでも発揮されていたな、と感心しながら見ていたのだが、彼の本領はこれだけではない。

「セッション」ではラストの講演で主人公が指揮者を演奏で従えたように、

ラ・ラ・ランド」ではすれ違いつづけた男女が夢見る最良のifストーリーをクライマックスに据えたように、

ファースト・マン」でも「いやこの流れでこう来ますか」という視聴者の感情を揺さぶるような場面をしっかりと組み込んでいた。

 

あまりにも素晴らしかったので、ここで書いてしまうが、あれだけ月へのミッションに固執していたと思われるニールが、月面に持参し、その場に置いてきたのは失った娘カレンの名があしらわれたブレスレットだったのだ(ちなみにそのブレスレットは序盤のカレンの葬式の時に机の引き出しにしまってから作中で一回も出ていない、完璧な伏線として機能している)。

これ凄いなって心から感心していて、僕はバカな視聴者だから完全にニールの心は家族から離れてもはや月に行くことしか念頭にない状態になっているのかと思ってしまっていたわけ。彼の行動は家族から遠ざかっていたし、それに対して妻も激怒してぎくしゃくしていたわけだし。

しかしまぁ気付く人は気付くと思っていて、なんだかんだ言って妻との思い出の曲のカセットテープを宇宙船に持参して宇宙で聞いたりしているわけだよ。いきなりカレンブレスレットを登場させずじわじわと家族を想起させるような創りにしているのも本当に上手い。

 

本作のラストシーンも隔離された(免疫検査期間は隔離される)ニールと妻がガラス越しに手を合わせるところで終わっていて、この作品のテーマが月に邁進する偉大な男でありそうなのだけれど、結果家族であることをちゃんと明示している。ワーカーホリック男に成り下がってしまった、かと思いきややっぱり家族だったか、という静かなどんでん返しが気持ちよくてたまらん。

ここらの「ラスト〇〇分の衝撃・・・!」映画よりずっと心が震えたよ。

 

映画館で見る価値

私、映画館の音響は素晴らしいなって思いつつも、映画館だからこそ感じられる静寂も好きなんです。宇宙船から月への扉が開かれたとき、結構な時間無音だったのよ(宇宙の分かりやすい表現だね)。宇宙飛行士の話だから当然このシーン以外にも宇宙を描写しているところはたくさんあるのだが、音楽と効果音と静寂のバランスがとても気持ち良かったからDVDで見るのはちょっともったいない。

ぜひ映画館で見て。

 

今回のオチ

J・K・シモンズさん、今回も出演するかな、って期待してたんだけど、今回は出ませんでした。残念。