【オリエント急行殺人事件(2017)】原作通りではないけれど、いい実写版だった。(感想:ネタバレあり)
原作は読んでいるし、1974年の実写映画も観ている。「豪華キャスト」が宣伝文句のこちらもしっかりと見てきた。
結論から言うと、分かりやすい。僕はミステリが好きだけど、複雑なミステリは頭が弱いのでよく理解できないという致命的な欠陥を抱えているのだが、本作はかなり丁寧にトリックの説明がされていて、より大衆向けのエンタメになったという印象だ。
原作よりも、1974年版の映画よりも、まずはこちらから見ることをお勧めする。多少改変はあったが、大筋とこの作品で描くべきポイントは抑えているので問題ない。
原作との改編
大きな変更点は以下3つ。
①コンスタンチン博士リストラ
医師役をアーバスノット大佐が兼ねている。彼は軍人退役後に医師になった設定に変更。ラチェットの死体の検視を容疑者じゃないコンスタンチン博士が行うことに意義があったと思うが、まぁそこは目をつむるべきだろう。
つまり、探偵役はポアロとブークの二人が担当。名探偵ポアロとすぐに結論付けようとするお調子者のブークというペアは、典型的な探偵と助手。3人目は確かに蛇足だったかもしれないので、良い判断だと思う。
②ヘクターの逃走
ラチェットの助手、ヘクターが物語中盤に証拠品を焼き消そうと列車から逃げる事件が発生。彼を追いかけるポアロの身のこなしを楽しむことが出来る。
焼き消そうとしたのはラチェットから金銭を横領している証拠品となる帳簿だった。
③アーバスノット大佐の自白。
上記事件でヘクターへの疑いの目が強くなるが、ここで原作にはない第二の事件が発生。ハバード夫人が背中を何者かに刺されてしまう。
この時点で一度ヘクターへの疑念は解かれることとなり、ポアロは別の人物に事情聴取を行うことになる。アーバスノットの恋人であるメアリの聴取中に、アーバスノットが拳銃でポアロを急襲。ちょっとしたアクションシーンののち、アーバスノットが自白をした。
が、オチは皆さんご存知の通り「全員が共犯者」。ポアロの灰色の脳細胞は原作にない事件にも動揺しなかった。
あとはオリエント急行に乗る前にちょっとした事件を挟み、「この事件で誰が得をするのか」という彼の推理アプローチをお披露目している。この考え方はオリエント急行の殺人の解決編でもしっかりと利用されており、うまい伏線を張ったなぁと感心していた。
やはりポアロが魅力的
本作はミステリとエンタメ作品の中間ぐらいの立ち位置にあると思う。「オリエント急行殺人事件」をエンタメらしくしたのは、本作の宣伝でも散々言われている豪華キャストの演技力。特に主人公ポアロがただの偏屈な人間ではなく、魅力的な探偵として描かれているのが良い。
乗客者全員が共犯、しかし被害者のラチェットによって人生を壊されてしまった人々。真実を隠し、彼らを庇うかどうかの葛藤にしっかりと尺をとっている。彼が葛藤する意味が分かる様に、彼のパーソナリティを描く努力も怠っていない。前述したオリエント急行に乗る前の事件についてもそうだし、会話の端々に見える「私はこう考える」という強い主張が、彼の人間性を象徴している。
ケネスブラナーの演技を見ているだけでも楽しめるので、映画としてのクオリティはある程度担保されていると言って良いだろう。
余談
残念ながら、私は「オリエント急行殺人事件」以外のポアロシリーズを読んだことがない。なので、オリエント急行殺人事件の前に描かれた事件や、オリエント急行を降りたあとにポアロが向かう事件が、原作にある事件かどうかは分からないのだが、ケネスブラナーのポアロの映画をもう一度見たいと思うので、ぜひとも実写化してほしいところ。
原作と1974年映画の感想はこちらから