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アルキメデスの大戦から学ぶデキる営業マンの極意(感想:ネタバレあり)

普段は戦争をモチーフにした作品はあまり見ないのだが、友人に勧められ作品を観たところ滅茶苦茶面白かった。現在絶賛ドラクエ実写映画が炎上しているが、怒りを感じた視聴者はこちらを見て心を落ち着かせてほしい。同じ監督。作品が悪くても監督は悪くはない。

https://archimedes-movie.jp

 

海軍の派閥が2つあり、片方は戦艦大和を、もう片方は空母を創りたいと考えているのだが、大和派閥が激安見積もりを出してきたので、空母派閥が「いやこれおかしいっしょ?おかしいって指摘できれば空母案通るんじゃね?」と数学の天才菅田将暉に依頼し、見積もりの穴を見つけてもらう、というのが大筋。

 

この作品の魅力は天才菅田将暉が圧倒的に不利な条件から敵陣営の大和の見積もりを足と頭脳で算出していく様と、菅田将暉を利用した海軍内の政治なのだけれど、最大のポイントはこれは決してかつての日本の出来事ではなく、現代の日本の組織でも起きている人間同士の争いとその末に訪れる組織の顛末を描いた物語であること。

私も組織に属し働く社会的な人間である。滅茶苦茶感情移入してしまった。

 

まあ普通に感想を書いてもいいんだが(書きたいことは上の段落で終わっているのでもう書くこともないのだが)、物語の内容に沿って営業マンになって3か月程度の私が「ほえ~勉強になるぜ~」って思ったことを述べていきたい。ちなみに、普通にネタバレをしていく。

 

①足で稼ぐ

菅田将暉演じる櫂直は舘ひろし演じる山本五十六にスカウトされ、海軍の少佐に。柄本佑演じる田中正二郎が唯一の部下となり、実質2名、2週間足らずの時間で見積もりを算出するという難題に挑むことに。

早速見積もり算出に動こうとするが、手元にまともな資料がなく、見積もりを算出するのに必要な設計図や原価表は機密事項(=軍機)として閲覧できない状況にある。

普通の人は(=作中序盤の田中正二郎がまさしくその"普通の人"なのだが)「いやソースがないんだから無理でしょ。」とあきらめてしまうところだし、ただ頭が回る人でも「いやソース出してくれれば計算できるけどね」といって他力本願してしまうところかもしれない。

 

だが、俺たちの菅田将暉は、櫂直は、違うんだ。

 

彼は軍機と知っていながらも数回書類を観ようとアタック。当然不可能なので今度は実際に軍艦を観に行くという。そして乗り込んだ先で軍艦の大本の設計図を書き写し、足りなかった部分は自ら軍艦内を動き回りメジャーと歩測を用いて補った。

考える材料がないなら、自ら材料を探す。

頭だけが回る天才ではなく、自ら汗をかいて解決のための手段を択ばない。彼は営業である。私はその時悟ったのだ。

 

②部下よりも動く、背中で教える

本作では天才の櫂直だけでなく、その部下の田中も良いキャラクターをしており、最初は櫂直に敵対心満々であったが、彼の真摯な気持ちに影響され終盤には大きな戦力として活躍する用になる。

 

そうなったのも、そう、俺たちの菅田将暉、櫂直のお陰なんだ。

 

前述したように、田中はガチガチの海軍所属の人間なので、「軍機だから無理ですよ」、「アポなしで軍艦にいきなり乗り込むなんて無理ですよ」とできない理由を探しがちだった。

しかし、櫂直の「君はやる前に無理だと決めつけるのが悪い癖だ」と言われてから、彼の行動は徐々に大胆に、目的達成のために動ける人間へと変わっていく。

もし、櫂直が自ら無理だと決めつけ動かない人間であったらどうだろうか?きっと田中にその言葉は響かなかっただろう。

櫂直本人が動き、そして常に部下よりもリスクをとり続けたからこそ(軍機の資料を書き写すなどの無茶は常に彼が行っていた)、田中も変わろうと決心したのだ。

 

ちなみに本作、2週間という短期間で大きなプロジェクトを達成しないといけないということで、結構な頻度で徹夜の描写が現れる。その時、田中が寝ているときに櫂直が寝ていることはなかった。つまり、櫂直は体力お化けであるだけでなく、部下に働かせるよりも自らが最も働く最高の上司だったということである。大好き。

 

③プライベートであろうと徹底的に人脈を使う

無事設計図を完成させた櫂直。この後金額を算出するには、設計図に使われた原材料の量・単価、そして人件費を調べなけえればならない。

しかしここでも軍機の壁が。そこで彼らは軍から発注を受けているメーカーから情報を手に入れようとする。しかし、当然軍の息がかかっているので、簡単には手に入らない。

 

だが、俺たちの菅田将暉は、櫂直は諦めない。

 

かつて恋仲であった浜辺美波(可愛い)演じる尾崎鏡子は、軍艦のメーカーの娘であった。彼女なら何か知っているかもしれない。

 

櫂直は悪い男だ。自分が好意を持たれていることをおそらく彼は分かっていた。なのに優しい言葉をかけて仕事と全く関係のない女から情報を手に入れようとする。

 

で、結果的にかつて付き合いがあった大阪の下請けがその情報を提供してくれるかもしれないと成果をちゃっかり上げている。いつの時代も仕事ができる男はモテるんだな、と思った。ちなみに本作の菅田将暉、前髪が一々エロイ。

 

営業マンは今すぐ髪型を整え、眼鏡をコンタクトに変え、清潔感を身に着けよう。そして、仕事であろうとなかろうと人に好かれる人間になり、ピンチの時にはしっかり頼るのだ。俺たちには、菅田将暉になれる希望が、まだある。

 

④憑依芸に情熱を乗せる。

所詮彼は数学を専攻する学生でしかなく、処世術に長けているわけではない。だから彼は欲望がままに、やるべきこととやりたいことを足と頭脳を用いて遂行していく。

しかしどうしても人の協力が必要なタイミングがある。まず1人目は尾崎鏡子だった(正確には軍艦乗船で協力してもらっているが、まああれは山本のつてだからノーカン)。しかし彼女はすでに彼の手中に落ちていたから、新たに協力者を増やすという行為には至っていない。

 

しかし、遂にその時が訪れる。櫂直、最大の試練の時だ。

 

尾崎鏡子に紹介された大阪の下請け業者のオーナー、笑福亭鶴瓶演じる大里清に原価の情報を貰おうと粘るが、彼は全く応じない。そこで、彼は切り札を用いる。

 

「戦争が起きます」

 

これ!最初「軍人は嫌いじゃ!」と山本さんのお願いを退いた櫂直が、心を揺るがせ、結果的に協力することになった殺し文句なんですよ!

 

いやー使ってきましたよ、人の必殺技を自分のモノの様に。でもただ言葉尻だけいってもしょうがないんですよね。彼の感情が乗っていたからこそ、その一言が一瞬だけ大里清の気持ちを動かした。

 

営業は会社のフロントとして、ある時はSEの、ある時は技術者の、ある時は企画の意見を自分のことのように言わなければいけない。その時大切なのはその再現度と、語り手である自分の感情が乗っていることだ。菅田将暉はそれができていた。

 

ま、結果的には東京から大阪までに追ってきた浜辺美波の交渉で協力が決定したんですけどね、結果的に女かーい!

 

⑤視点を変える

順調に原価の計算を勧めようとした矢先、東京から電報が届き、見積上申会議の日付が翌日になったことを知らされる。

時間が無くなった櫂直。普通に原価計算をしていれば間に合わない。

そこで、彼は機転を利かせ、別のアプローチで原価を計算する方程式を考えつく。その方程式があれば鉄の量さえわかれば製造総額が分かるとのことだ。

 

この発想力よ。普通の人なら、会議の日付をずらされた時点で「万策尽きた~」と「まあここまで頑張ったからいいよね」と「僕のせいじゃないよね」とあきらめてしまうところだ。

 

しかし、日本の菅田将暉は、櫂直は違う。

 

彼がやらなければいけないミッションは見積もり算出を上申会議までに間に合わせ、大和製造を阻止すること。その目的のために、手段を問わないし、それが達成するために、何があっても諦めない。

今まで辿ってきた道筋はその一つの手法でしかなく、時間が足りないというならば別の手段にその場でシフトチェンジする。その目的を忘れない気持ちと機転を利かせされる柔軟な頭。

目的は、アポをとることではなく、上司に言われたことをこなすためではなく、会社が推奨する商材を売ることではなく、数字を稼ぐことである。そのための手段を柔軟に変えながらゴールに目指す。

ここまでできればスーパー営業マンだ。

 

ちなみにそれでも移動しながら鉄の量の計算を続ける必要がある。ここでも浜辺美波の協力があった。もはや部下じゃん。え?なんなの?仕事とプライベートわけなよ?

 

⑥上司を変える

ここから先はクリティカルなネタバレになるので避けるが、物語のクライマックスの上伸会議にて見積もりの不備を暴き、いろいろ議論があり、大和案は却下された。

 

が、世界の菅田将暉は、櫂直は、視点が違う。

 

なんと、ここから自らが当初描いた「戦争を止めたい」というビジョンを変え、「戦争の被害を最小限にとどめたい」と考えた。そして、戦艦大和を製造する陣営に寝返るのだ。

 

まあここのディテールは映画館で楽しんでほしい。

ここで言いたいのは、自らの考えが変われば上司も変えるべきだということ。

営業マンとして売りたいものが変わったら、やりたいことが変わったら、当然自らの才能を腐らせないためにも別の場に移るべきだ。義理も人情も必要ない。なぜなら、上司もまた、自らの欲望のために部下を動かしているのだから。

 

君も、やめたかったら今すぐ辞めよう。僕も、転職サイトからのメールを日々大量に受け取っている。

 

※余談だが、櫂直ほどの天才でも、上の立場の人間の言うことには言いくるめられてしまうということは皮肉な事実として残っている。ビジョンを変えるのは良いが、彼は簡単に影響されてしまうというある種の弱さも持っていた(彼の考えは正しいのだろうが、プロセスが簡易的過ぎて鵜呑みにしているように見えた)。

だが、我々が生きる世界はそんなに簡単ではない。自らが目指したい世界は自らが決めないといけないのだ。一組織の営業マンであったとしても。

 

本日のまとめ

菅田将暉はイケメンだし、可愛い浜辺美波が協力してくれるし、営業マンとして大成とかどうでもいいから、僕も菅田将暉になりたい。