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君の膵臓をたべたい(2018/アニメ)と特典『父の追憶の誰かに』の感想(ネタバレあり)

kimisui-anime.com

見てきた。

 

当ブログにおいては、「君の膵臓をたべたい」について既に2つの記事を書いており、

midoumairu.hatenablog.com

midoumairu.hatenablog.com

 原作、実写映画についてあれこれ語っているのだが、特別強い思い入れがあるというわけではない(つまり、内容について詳しく語ったり、この描写が・・・というマニアックな説明が出来ない)。

だが、アニメ版「君の膵臓をたべたい」、とても好きな映画だった。

ネタバレありで感想を書きたい。

 

原作が好きな人は確実に楽しめる作品

原作を読んだのが遥か昔なので、微細な部分のストーリー展開の違いがあったかもしれないが、基本的には原作の内容を忠実にアニメーションに落としている。

原作の内容と大きなブレがないので、小説が好きな人が望んでいた映像化作品であると言えよう。実写版は大幅な改編が入った挙句、大切な要素を改編していたので、原作ファンは不満に思ったかもしれないが、本作においてはその恐れは一切ない。

(「君の膵臓をたべたい」の意味も丁寧に解説されていたし、共闘文庫を読むタイミングも内容も変わっていないし、ちゃんと高校時代に恭子さんに友達になってくださいと伝えている)

 

原作で私が好きな描写は、他者が「僕」の名を呼ぶときに、「僕」が考える相手にとっての自分の印象を墨付カッコ【】で囲って描写しているところなのだけれど、映像化でその描写を再現するのは困難なものの、彼と桜良さんとの会話の中でそのこだわりについての言及もされており、最大限の配慮がなされていたと思う。

 

小説が原作なだけあり、「僕」の心情はうるさくない程度にナレーション形式で体ねぇ位に説明されているし、原作のエピローグの部分はしっかりとエンドロール後の映像で流すといった細かい配慮も申し分ない。

 

もうこれだけで、原作がありきの映像作品としては満足してしまう域に到達しているのだ。

 

アニメーションならではの魅力

本作は「原作が小説のアニメーション」のお手本のような作品だと思っている。

原作の良さを踏襲しながらも、映像と音楽の力でそれを助長させ感情を揺さぶってくるのだ。

 

まずは音楽。


『君の膵臓をたべたい』sumika「ファンファーレ」付き特報

本作はOP,ED,劇中歌をすべて「sumika」が担当していて、彼らも本作に標準を合わせた曲を書いてきていることもあり、中々良い。

特にOPのファンファーレは物語の始まりを感じさせる爽やかな曲調でとても良かった。短いが、桜の下で「僕」と桜良が並んでいる絵面が綺麗なのだ。

 

「Lovers」いいなぁとyoutubeで聴いてた彼らがいつの間にか売れてるバンドの仲間入りをした挙句、大型タイトルとタイアップしてるなんて感慨深い。


sumika / Lovers【Music Video】

 

あとは本作の大切なモチーフである「桜」がビジュアルとして目に見えて、しっかりと美しいのが原作では楽しめないポイントだろうか。

物語のクライマックスである「僕」が桜良の遺言を読むシーンだが、あの部分はアニメーションならではの装飾がなされており、桜良が「僕」に貸した『星の王子さま』のモチーフになぞられて、桜良と「僕」が会話するような形で描かれている。

※「愛読書は人となりを表す」と言っていた「僕」が、桜良の死後、彼女の唯一愛した書籍「星の王子さま」を読んだからだろう。「僕」のイメージする桜良像が描かれててとても好きな描写だ。

 

その時、花畑のように桜が広がっているシーンがあるのだけれど、桜良の手紙の内容も相まって感情を揺さぶってくし、その直後か直前か記憶が混濁してて覚えてないのだけれど、「僕」と桜良との思い出がいくつもの一枚絵として次々と映し出される描写があるのだけれど、あれは卑怯である。否応なしに涙ぐんでしまう。

 

キャラデザが良いので、「僕」と桜良がハグをするシーンもとても暖かく感じられる。ハグする後ろで満開の花火という青春物の様式美もしっかりと抑えられていて、言うことなしだ。

 

逆に違いは?

僕の読解力がないからなのか、原作では「僕」の桜良への感情も、桜良の「僕」への感情も、かなりぼやかしていたと思っている。だからこそ、エピローグの「本当は好きな子は君だったんだ」的な文章がとても良いのだが、映画版にはそれがない。

 

映画版だとかなり序盤から「僕」が桜良を女の子として見ているんだろうな、という描写がかなり多めで、桜良もそれを助長させるような思わせぶりなことを言うものだから、もはやこれが恋愛じゃなくて何なんだ、という印象を持った。

「友達でも恋人でもない大切な人」という関係よりは「付き合ってるだろこいつら」的な印象が強く、作中でクラスメイト達から勘違いされても仕方がないな、と思わされる。

何というか、原作は文字が多くのっぺりしている分、そのイチャイチャ感はあまり出ていなかったのだけれど、いざ絵を付けて声を付けるとやっぱりこいつらのそれは恋愛だよな、と思ってしまったというか。

 

「彼らの絶妙な関係性」が恋愛に近しい形で落とし込まれていたような気がしたのが、少し残念なところだろうか。

 

特典『父の追憶の誰かに』について

公開初日に見てきたのだが、こんなのを渡された。

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32ページの短編で、『君の膵臓をたべたい』と世界観を共有している作品である。「僕」と桜良の兄の娘が墓参りをしているのを浮気と勘違いした「僕」の娘(=ふゆみ)が、恭子とガムの人の娘(=あんず)と一緒に尾行をする話である。

 

大人になった「僕」は出版社に勤めていて、既に家族との生活を人生において一番幸せな時間だと過去を乗り越えている。それでも、桜良との時間は大切であったことが言及されている。

原作ファンにとっての完璧な救いの物語。良い続編であった。

 

ちなみに、後半には高杉真宙さん×住野よるさん、Lynn×住野よるさんの対談が掲載されているので、そこもお楽しみ。僕はあまり作者が作品について語る機会は好きじゃないので、まだ未読ですが、きっと良いことが書いてあるはず。