【未来のミライ】ホームビデオ感(感想:ネタバレあり)
見てきた。
細田守監督作品は「時をかける少女」から「バケモノの子」まで見ていて、「サマーウォーズ」までは好きだったけれど、以降は「やりたいことは分かるけど・・・分かるけど!」といった印象。
で、満を持して「未来のミライ」を視聴してきたわけだが、これがとてもよかった。
スタジオ地図作品の中では、一番シンプルで、物語が分かりやすい。
「時かけ」や「サマーウォーズ」のようなSFではないし、「バケモノの子」や「おおかみこども」のようなファンタジー的な特殊な設定もない。
端的に言ってしまうと、家族の日常を切り取り、主人公のくんちゃんが少しずつ成長していく話なのだが、その成長のファクターとして、くんちゃんと「未来のミライちゃん」をはじめとしたさまざまなキャラクターとの関わりが描かれている。
僕が劇場で見た予告映像から勝手に想像していた物語とは大幅にずれていたわけだ。
「くんちゃんが生きる世界(現代)」⇒「未来のミライちゃんとくんちゃんが時間・空間を超えた大冒険に出る」⇒「くんちゃんが成長して元の世界に戻ってくる」
ってシナリオなんだろなーと勝手に想像していたのだけれど、ハズレ。
むしろこの物語の主軸はくんちゃんが生きている現代にあって、
「現代」⇒「くんちゃんの空想?の世界(=未来のミライちゃんや、子どもの頃のお母さん、などなど)」⇒「現代」を繰り返していく構図。
したがって、少々メリハリのない印象を持ってしまい、多少退屈してしまう一面もあったのだが、そこら辺はアニメーションならではのキャラクターの豊かな表情だとか、コメディ要素だとか、絵の美しさ(未来の東京駅のシーンの描写は度肝を抜かれた)とかで、補えていたと思う。
しっかり起承転結で構成されている物語っていうよりも、家族の関係をリアルに丁寧に描写したシーンが連続しているホームビデオのような印象。結婚式で流れる新郎新婦の生い立ち映像を見ているような温かな感動を覚えた。
以下ネタバレ込みで細かいツボポイントを書いていくぞ。
演出力
あまり詳しいわけじゃないので、ざくっとしたことしか言えないけれど、人の感情を表情や動きで描写したり、時間の経過や小さい子どもがいる家庭における家事の慌ただしさをカメラワークで表現するのが抜群に上手い。
起承転結的な構成をしていないと前述したけれど、なのに面白い、魅力的な作品に仕上がっているのは、この演出の力にあると思う。
くんちゃんの家族が住んでいる家はざっくりこんな感じなのだけれど、各階の様子を横から映したカメラをせわしなく動かして、忙しさ、慌ただしさを表現しているところがあって、とても好き。
庭が過去や未来に繋がっている
くんちゃんが庭に行くと、空想モードがスタートする。
くんちゃんは作中、時を超えて色んな場所に冒険に行くわけだが、「これおかしくね?」という風にならないのは、起点が庭にあることに終始しており、「まぁ小さい男の子の想像の世界なんだな」となんとなく合点がいくから。
飼い犬が擬人化されたり、未来のミライちゃんが現れたり、子どもの頃のお母さんの家に遊びに行ったり、青年時代のひいおじいさんとバイクに乗ったり、未来の自分自身に出逢ったり。
とにかく、くんちゃんは時空を超えて自らの家族との出会いを重ね、その結果少しだけ成長して元の世界(空想ではない現実)に帰ってくる。
分かりやすいところで言うと、例えば自転車に乗れなかったくんちゃんが、空想の世界でひいじいさんとバイクに乗った後、現実世界で自転車に乗れるようになっている、とか。そういう親から見て子どもがちょっと成長したな、と思えるような小さなエピソードの背景を、庭の空想世界が補っているような形だ。あくまでも現実世界で起こっている出来事は、「こんなことないでしょ」と違和感を持つようなものではなく、ちゃんとリアリティあるものに終始しているのがポイント高い。
この作品のテーマは分かりやすくて、家族の絆、とか家族のつながり、とかそういったものだ。それを未来と過去の家族に出逢うエピソードを重ねることで表現したのがこの映画。
物語のクライマックスはくんちゃんが未来の東京駅で迷子になってしまい、未来のミライちゃんが助けに来た後「家族の記憶」がアーカイブされた空間を二人で眺める場面なのだけれど、その時のミライちゃんのセリフが、細田守監督が描きたかったテーマそのものだ。
言葉にしなくても視聴者なら大体わかるのに、とは思ったけれど、言いたいことをすべて説明してしまうのが近年の映画の傾向だからしょうがないかな。
(おまけ)声優について
名だたる有名俳優が本作の声をあてているが、違和感は全くなかったので、そちらについてはご安心を。
まとめ
時かけやサマーウォーズには及ばないものの、物語に矛盾や違和感を生じさせない(まぁそもそも今作は起承転結から外れたのっぺりした物語だったという前提はあるが)とう意味では、スタジオ地図作品の中では3番目に好きな作品でした。
もう一度、まったりと家で見たい。