定時後に映画館

仕事の片手間に映画の話をします。

ソースではなく塩でたこ焼きを食べる甘美な背徳感

先日出張で大阪に行ってきた。

大阪に行くときは必ずたこ焼きを食べるようにしている。

むしろ大阪に行くときしかたこ焼きを買い食いすることはないので、大阪に行ったときぐらいはたこ焼きを楽しみたいという気持ちが強い。

 

私にとっては大阪でのたこ焼きは「半年に一度の贅沢」的なポジションである。安いしどこでも買えるのだけれど、あえて大阪のたこ焼きのみに照準を絞ることで、たこ焼きとの時間をプレシャスタイムへと昇華しているのだ。

 

14時頃に仕事を終え、新大阪駅でたこ焼きを探す。

せっかくだから新幹線が通る駅周りじゃなくて、ちゃんと探せよって思うかもしれないが、そういうわけにはいかない。仕事自体はなんば駅付近で終えたのだが、営業さんや先輩の目を気にせずたこ焼きを食べるために、「もう帰りますよ~」みたいな顔をして新大阪に向かうのだ。「これからたこ焼き屋探します」と言っては角が立つ。出張中に後腐れなくたこ焼きを食べるためには、新大阪駅が最適だ。

 

ググって導き出したたこ焼き屋さんが「たこ焼き道楽 わなか」という店だ。

takoyaki-wanaka.com

 

これから帰ろうとしている人にはあまり関係ないのだが、新大阪駅の新幹線改札外にあるので、アクセスはしやすい。持ち帰りだけでなく、店内でも食べられる。キャパは15人~20人ぐらいだろうか。僕が入店したときには、綺麗なお姉さんとキャリーバッグを持ったおばあさん、旅行中と思われるオラついた2名の男性がいた。

 

せっかくなので僕も店内で食べることにした。爽やかイケメンのお兄さんが店頭でたこ焼きを作っている。オーソドックスに450円8個入のたこ焼きをオーダーした。

 

「定番のソース、オススメの塩、・・・・(ちょっと覚えてない)から選べますが」

 店員さんが笑顔を浮かべて僕に問う。

(・・・オススメの塩!?)

僕は怯んだ。しかしせわしなく櫛を動かしたこ焼きをくるくるさせるという使命を負いつつも、オーダーの対応をしてくれているお兄さんに迷惑をかけることは出来ない。仕事中に回すことが出来なかった頭をフル回転させ、僕は結論を導き出した。

「では塩で」

その間、おそらく3秒程度。確実に美味しいであろうソースを選ぶか、食の探究者たる姿勢を保ちまだ見る味の世界を開拓するために塩を選ぶか。私は後者であった。失敗したら次に大阪に来るときにソースで食べればいい。それもまたご褒美だ。

 

会計を済ませると、お兄さんがぽんぽんとたこ焼きをくしでたこ焼き機から拾い上げ、器にたこ焼きが綺麗に収まった。塩は軽くさっと振りかけられた程度。その後、マヨネーズ、鰹節などお馴染みのトッピングが盛られていく。

 

しかし、いつもの香りがしない。ほんのりと甘いソースの匂いが。

塩たこ焼きからは辛うじて鰹節の香りがしていた。どうしても、足りない。

この時点で既に後悔は始まっていた。

(やはり、たこ焼きはソースであるべきでは)

しかしすでにトッピングを終え、器を受け取ってしまった以上、今更ソースに変更していただくわけにも行けない。なにより店のオススメは塩味なのだ。たこ焼きにソースを塗りたくることは、お兄さんの顔に泥を塗りたくるのと同義。

 

比較的入口に近いテーブル席に腰かけ、さっそくたこ焼きを櫛で広げていく。猫舌だから、中身を外気に晒さないと熱くて食べられないのだ。5分ほど経ってから、1個目のたこ焼きを口に運ぶ。

 

うむ、美味しい。「スイカ理論」が塩たこ焼きには応用されていた。

まずはほどほどの塩気。そしてすぐにたこ焼きの生地の味が口の中に広がる。意外にも、たこ焼きの生地自体が結構甘いのだ。塩で生地の味が際立っている。これこそスイカ理論、甘いものにしょっぱい塩をかけることで甘みが際立つというあれだ。もちろん生地やタコ自体の味だけでは素朴過ぎてなんだか物足りないのだが、それをマヨネーズや鰹節が補ってくれている。

 

ソースという強い味にかき消されていたたこ焼きの生地自体の味を、初めて塩たこ焼きで味わうことが出来た気がする。あっさりしているので、次々と食べれてしまう。食べる、食べる、食べる。しかし新しいたこ焼きを口に運ぶ度、僕はソースにまみれたいつも通りのたこ焼きを思い出していた。

ソースを思い出しながら、今目の前にいる塩たこ焼きを堪能する。いつまでも、「もしかしたらソースの方が良かったのでは」その疑念が消えてくれない。大阪にまで来たのに、オーソドックスな、誰がどういっても美味しいであろうソースたこ焼きを食べずに、たこ焼きの新しい楽しみに興じている。

なんだこの背徳感は。旨いものを目の前にしながら、定番を、食べなれたいつもの味を心のどこかで求めている。

 

浮気。

 

これは浮気だ。

人が浮気に溺れてしまう理由を今僕は知ってしまった。単に美味しいものを食べる以上の甘美な味。普段の美味しい食べ方を裏切り、新たな美味しさを開拓する、満足感と表裏一体の背徳感。それが知った味を裏切り、新たな食べ物に辿り着く理由だったのだ。

 

残念ながら男女関係に関する浮気は世の中的によろしくないとされており、私も浮気はしないようにしている。

しかし、食べ物ならば別だ。いくらでも楽しめる。

 

食の開拓者たちよ。浮気者であれ。

自らのお気に入りを持ちながらも、別の食べ方を、別のトッピングを、別の具を、別の調理法を、試し続けよ。

 

しかし、一番はソース味も塩味も食べることだと帰りの新幹線で僕は気付いた。

どっちもおいしいのだから。

食の開拓者達よ。ラブコメの主人公であれ。