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【透明人間の骨】完結してしまった。(感想:ネタバレあり)

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ジャンプ+で愛読していた「透明人間の骨」が本日の更新を持って完結した。

昨今長い漫画が多い中、二十二話という短い話数で引き伸ばすことなく美しい最終話を迎えたこの漫画に賞賛を送りたい。

 

あらすじ

来宮家では、日頃から母に手を挙げる父。我関せずを貫く兄。幼き日の主人公・花(あや)が「ここに居たくない」と念じた矢先、“透明になる”力を得る。時は流れ、15歳になった花はある日・ある出来事を契機に決意を固め…。

 ジャンプ+公式から引用。

 

「透明になる力」という非現実的なギミックはあるものの、ファンタジックな内容ではなく、心に闇を抱えた女の子の生き方を丁寧に描いている青春ものだ。

「ここに居たくない」と念じることで透明になる能力が、漫画として効果的に作用しており、その能力を通じた描写で主人公花の心情が分かりやすく読者に伝わってくるので、「よく考えらているなぁ」と感心してしまった。

それぐらい「透明になる力」は違和感なく作品に馴染んでいるし、能力が花を取り巻く人間関係や彼女らの心情のリアリティに水を差すこともない。

 

「透明になる能力」による演出力

あらすじでは書かれていないが、花は母親に暴力をふるう父親を刺殺する。透明になる能力を使っていたので、犯人としては検挙されない。

花は殺したという罪に苛まれながら家を出て高校生活を始めるが、彼女にも友人が出来、やがて「ここに居たくない」という意識や自らを卑下する考え方が少しずつ改められていく。誰かといる楽しさを知った花は、ここに居たくないと思えなくなり、「透明になる能力」を失う。透明になって誰かの写真を撮る趣味を持っていた花が、透明になっていたつもりなのにクラスメイトに見つかるシーンが印象的だ。第三者として撮るのではなく、この空間に居たいと思っている彼女の心情の変化が分かりやすく描かれている。

 

当然最終話に至るまでにいろいろな出来事があり、彼女が「誰かと一緒に過ごす楽しさ」を享受し続けるわけではない。物語の中盤「友人から自分は離れているべきだ」と花を絶望させる事件が起き、その後花は孤独になろうと「透明になる能力」で行方を眩ませた。つい最近まで友人と仲良くして少しずつ生きることの楽しさを知っていた少女が、ふっと空間から消えてしまう描写は読者の胸を突き刺す。ぽろぽろと涙を流したり、絶望的な脳内のセリフをコマに垂れ流すことも出来るのだが、「彼女が消えたいと望み、実際に風景から存在そのものが消し去られてしまう」というインパクトには敵わない。

 

結果的に、彼女は友人に見つかり、また人との関係を築いていくことを決意するのだが、終盤からの展開が熱いのだ。

 

闇を抱きながらも光を見出そうとする花の強さ

物語終盤、彼女は自首することを決める。実の父を殺し、自分の周りで友人が不幸になり、自分の人生に付きまとう闇と散々向き合った花が、他者との交わりの中で感じる幸せな時間を享受したうえで出した結論が、「自首」。

 

自首を決意した後、彼女は母親や兄、殺害した父親の父親(つまりは花の祖父だ)に自らの罪を告白していく。当然彼女に人生の楽しさを教えてくれた友人にも、その事実は伝えている。贖罪のようで、一概にそうとは言えない。祖父に自らの罪を告白した花は、謝罪をしたうえで「父を許さない」とはっきりと言う。そもそも「父を殺してすいません」なんて言っていない。自分の当たり前の幸せを壊した父親を殺害したこと自体への後悔ゆえの行動ではないと思われる。

 

ではなぜ自首するのか。最終話で彼女が自首する理由を、友人に吐露する場面があるのだが、それがぐっとくる。

まぁ読んでほしいのだが、花はいくら幸せな時間を味わうことが出来たとしても、変えることのできない過去が付きまとうことを、学んできたのだ。その結果、彼女は闇と向き合い、振り払わないと、大切な人と過ごす本当の幸せを手にすることが出来ないと悟ったのだ。

「ここに居たい」と願ったが、故の決意が自首。どうしようもない不幸に見舞われてしまった主人公が、束の間の幸せと、それを知ってしまったが故の不幸を味わう。そのうえで、自らを罰することを決意する。

何とも切ない終わり方ではあるが、「人間の強さ」が本作の花ちゃんの生き様からヒシヒシと伝わってくる。強い感情が込められた重厚な作品で、毎週読むのが楽しみで仕方がなかった。

まとめ

これ毎週感想書いてりゃよかったな。全部まとめて書くには1話1話が濃厚過ぎるんだ、まとまりのない感想になった。

とにかく、連載お疲れさまでした。