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【ビニー/信じる男】狂気じみた熱中が似合うマイルズ・テラー(感想:ネタバレなし)

vinny-movie.com

 

ちょっと前に見てきたけど感想を放置していた。「セッション」のマイルズ・テラーが音楽映画ながら完璧なスポコン主人公を演じていたので、彼がボクサーを演じると知って飛びついたわけだ。


『ビニー/信じる男』×『セッション』スペシャルコラボ映像/マイルズ・テラー

↑こんな映像もあるぐらい。

 

「マイルズテラーの演技が好き」で片付けてしまおうか迷ったけれど、せっかく見たので、だいたいどんなシーンが見どころで、どんな話だったかだけ簡単にメモしておく。

 

あらすじ

まず、前提として史実をもとにした映画である。実在するボクサー「ビニー・パジェンサ」の物語だ。

で、映画の内容のすべては公式サイトの「ストーリー」に記載されている。

簡単に書いてしまうと、

①ビニーがプロモーターに引退勧告される。

②ケビン・ルーニー(アーロン・エッカート)というトレーナーのもとトレーニングを積み、階級を変えてチャンピオンに。

③交通事故発生。首の骨折をしたが、ハロー手術を受け、復帰を試みる。

※ハロー手術だとリスク(歩けなくなるとか)が大きい分、復帰の可能性が多少あった

④見事ボクサーとして復帰。ロベルト・デュランとの対戦に臨む。

 

なお、ロベルト・デュランとの闘いで勝ったか負けたかは「ストーリー」にも記載されていないので、一応伏せておく。まぁ、基本的には史実に沿った映画なので、wikiを見てしまえば結末は分かってしまうのだが、一応お楽しみということで。

 

事故の前後で試合のスタイルが変化しているのが面白い

この映画の見どころは事故にあっても闘うことを諦めずに見事復帰したビニーの気持ちの強さと、彼をサポートした家族やトレーナーとの関係性だと思っている。

 

ビニーの自らを信じる気持ちとその強靭な意志の強さは一貫して失われてはいなかったが、事故の前後で彼の闘い方が変わっているのが面白い。

 

事故のより前、引退勧告される⇒トレーニングで階級を上げ返り咲くという「ただのボクサー」としてのビニーが結構丁寧に描かれているので、彼がどのようなパーソナリティを持っているのかがよくわかる。

 

事故の前のビニーは、自分が強いと信じ込んでいる。トレーナーのケビンにはその無鉄砲すぎる性格について注意を受けていた。試合中相手を挑発し、わざととどめを刺さないような場面も。

それでも、彼は実際に強かったから、チャンピオンになることが出来たが、事故をきっかけに一度ボクサーから離れることになる。ハロー手術によって、身体の自由が利かない状態に。

その後、復帰戦に臨むわけだが、その試合中のビニ―の立ち回りが必要以上に慎重になっている。作品中試合の場面は2~3回ほどあったのだが、ケビンが彼のトレーナーになってからの仕合は臨場感たっぷりで尺も長めにとっていたので、スポーツなど一切見もしない僕でもその違いがよく分かった。

ビニーは一般人離れした意志の強さで決して親近感を持てるタイプの主人公ではないが、初めてその場面で人間味を感じることが出来た。

大きな事故を起こし自らの身体を労りながらトレーニングを重ねてきたのだから、慎重になるのは当たり前なのだけれど、その人間として当然持ち合わせているであろう危機意識のようなものがビニ―にはなさそうだったので、その試合のシーンがぐっときたわけだ。

で、そんな荒くれものが最後に慎重になっているところ、彼の本来の力を引き出したのがトレーナーのケビンの一言だった、というのもとても良い。ビニ―とケビンの絆の集大成を試合中に見れるわけだ。ラストのロベルト戦はまさしくクライマックスに相応しかった。 

 

ビニ―がブレない中、周りが脱落していく

基本的には信じる男であるビニーは化物であり、人間的ではない。もちろん彼の葛藤は作中で描かれているが、事故を起こしてもなお闘おうとしている人間に僕は感情移入が出来なかった。おとなしくリタイアしろよ、って気分でいっぱいだった。

 

そんな信じられない男である私の気持ちを代弁してくれているのが、ビニ―の周囲にいる人間達。普通の感覚を持ち合わせた登場人物たちが、ビニ―の異常性・凄まじさを浮き彫りにし、かつ我々一般人が置いてきぼりにならないようにしてくれている。周りを固める人間達の多様性のおかげで、いろいろな視点からのビニ―が描けていたような気がした。

 

・一貫してビニ―が闘う姿を直視できないビニ―の母親

・事故前にはセコンドについて一緒に闘っていたが、事故の後はサポート出来ないとビニ―から距離を置いた父親(もちろんそれでも応援はしていたけれど)。

・ビニ―を商品としか見ておらず、闘えないと思えば容赦なく切り捨て、金になると思った瞬間に試合のカードを取り付けてくるプロモーター。

・ハロー手術後離れていった恋人

そして、何よりこの映画で良い味を出していたのが

・事故直前にビニ―の階級変更による復活をサポートし、事故後も唯一ハローベストを装着しているビニ―のトレーニングを指導したトレーナーケビン。

 

物語でフォーカスされていたのはこういった人々。当然ビニ―との接し方やビニ―が闘うことへの考え方はそれぞれ違う。にもかかわらず、ビニ―はケビンの助言以外はほぼ気にせず自らの道を突き進んだわけだが、それもまた彼の強さの証明となっている。

 

また、基本的にビニ―は諦めを知らず、挫ける様子もほぼ見せないのだが、周りが凋落していく様で彼の状態の絶望感を表現していたのも良い。

 

お陰で

「いや、ビニ―ぴんぴんしてんじゃん。復活するっしょ」

って気持ちで作品を見ずに済んだ。

しっかりと絶望的であることを、周りの人のリアクションが証明してくれている。例えば闘うビニ―を誇りに思っていた父親がセコンドから外れたこと。そしてケビンが酒を飲んで警察に捕まったこと。あとは冷静にチャンピオンベルトを返還しろと言ったプロモーター。

都度都度そういった「信じる男であるビニー」と「復活を信じない一般人」のギャップを演出して、視聴者を置いてきぼりにせず緊張感を保てていた。

 

※今書いてて気づいたけど、ビニ―への態度が一貫して変化しなかった母親ってやっぱりスゲーな。

 

まとめ

超人ビニ―の異常性を楽しむ映画ではあったが、彼自身ではなく彼の周りにいる一般人をしっかりと描くことで、ビニ―が映えていたということも忘れてはいけない。

特にトレーナーのケビンはもう一人の主人公であり、彼こそスポーツものの醍醐味である栄光と挫折、そして復活を体現していた「一般人」だったと思う。ぜひ彼の活躍にも注目してほしい。