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【掟上今日子の婚姻届】ころころ態度が変わる今日子さん(感想:ちょっとネタバレ)

 

掟上今日子の婚姻届

掟上今日子の婚姻届

 

 読んだ。なんなら、再読してしまった。

 

忘却探偵シリーズで一番好きな作品が、「婚姻届」である。

 

数多くある西尾維新作品シリーズの中でも、最も一般受けしたと言えるのが「忘却探偵シリーズ」だと思っている。他のシリーズに比べてキャラクターや文体の癖も強すぎず誰もが読みやすいし、事実ガッキー主演で週ドラ化もしている(僕はドラマは見ていないので、視聴率がどうこうみたいのは分からない)。

他のシリーズのメディアミックスと言ったら「アニメ化」だが(物語も、刀語も、戯言も)、忘却探偵シリーズは実写化に耐えうる作品だとお偉いさん方に判断されたのだろう。

 

なぜ、「婚姻届」の話をする前に「メディアミックスがー、一般受けがー」みたいな話をしたのかと言うと、一般受けする(=多くの人が耐えうる)作品の条件の一つに、「恋愛要素があること」があると考えているからだ。

特に、推理小説という分野は、読み手を選びそうだし、そのハードルをぶっ壊せるだけの要素を物語に混ぜ込まないといけない。その「要素」として分かりやすいのが、「恋愛」だと思っている。

忘却探偵シリーズにもそういう男女を意識させるような描写がいくつも盛り込まれるのだろうなあと、僕は読み始める前はそう思っていた(僕はドラマ化が決定してから「忘却探偵シリーズ」を読み始めた)。

 

 

しかし、忘却探偵シリーズは、恋愛とは相性が悪かった。今日子さんには、今日しかないし、彼女に(密かに)思いを寄せている隠館氏は万年容疑者であり恋愛映えしない。なんなら、その隠館氏はレギュラーメンバーではなく、出演しない話も多い。

二人の仲の進展はないものの、じれったい「きゅん」要素を織り込みつつ、忘却探偵シリーズは巻を重ねてきたが・・・。

 

ようやく、「婚姻届」が発売されたのである。私は胸を躍らせた。私もまた、ミーハー精神の塊のような人間である。恋が好きである。今日子さんが好きである。今日子さんには恋愛をしてほしいと思っている。婚姻届というぐらいだから、きっときゅんとする何かが起こり得るはずだ。表紙のウェディングドレス姿の今日子さんも素敵だ。

きっと、恋愛が主題になるのだろう。ならなかったらおかしい、いや西尾維新作品なら容易にありうる・・・。

そんな期待と疑念を抱きながら、私は「婚姻届」を読み始めたのだった。

 

で、その内容は期待通りだった。あるいはそれ以上だった。

初めて明確に、というか露骨に今日子さんの「ツン」と「デレ」を楽しめるのが「婚姻届」。今日子さんファン必読の一冊である。

 

というわけで、感想に移りたい。解決篇は書かないけれど、話のこまごまとした要素はネタバレありなので、注意していただきたい。

あらすじ

アマゾンの内容紹介から引用させていただく。

忘却探偵・掟上今日子、「はじめて」の講演会。檀上の今日子さんに投げかけられた危うい恋の質問をきっかけに、冤罪体質の青年・隠館厄介は思わぬプロポーズを受けることとなり……。
美しき忘却探偵は、呪われた結婚を阻止できるのか!?

主語が書かれていない上手な内容紹介ですね。まぁ文脈的に今日子さんと隠館氏が結婚云々の関係になるわけではないということは分かるとは思いますが。。。

 

話の流れはこんな感じです。

 

①今日子さんの講演会で、ジャーナリストの囲井都市子さんが「どんな男性が好きですか?」という質問をする(これがアマゾン内容紹介の「講演会」に当たる部分)。それに対して今日子さんは「男なんてどいつもこいつもみんな一緒」と答える。

 

②後日、隠館氏が冤罪体質について、囲井さんから取材を受ける。その際、プロポーズされる。

うん、唐突にどうした?って感じだと思うんですけど、囲井さんは好きになった男性が全員不幸に見舞われる体質であるらしく、元々不幸な隠館氏となら幸せになれるという文脈でプロポーズしたって感じ。

 

隠館氏、当然プロポーズなんて受けられない。囲井さんの「好きな人が不幸になる」説をひっくり返すために、今日子さんに囲井さんの身元調査を依頼する。

 

④「不幸になる」説が成り立たないと今日子さんに立証してもらい、囲井さんに電話で説明するも、囲井さんが激怒。インタビュー原稿を渡すまでに適切なプロポーズの断り文句を考えておかないと破滅させると脅される。

 

⑤「気になることがある」と今日子さんが深夜に隠館氏の家に来訪。「気になること」は解決篇の内容に踏み込んでしまうので、割愛。その「気になること」を明らかにするために、今日子さんは一度寝ることにする(人格・記憶のリセット)。

 

⑥無事に「気になること」を解決し、隠館氏は囲井さんの「好きな人が不幸になる説」の隠された真実を言及。プロポーズの話はなかったことになる。

 

といった流れだ。

まぁ事件の流れは僕の書きたいことの本題ではない。

今日子さんの魅力について書きたいんだ僕は。

 

キライな今日子さんと、好きな今日子さん

今回は、"2人"の今日子さんが登場する。

1人目は、隠館氏が初日に仕事の依頼をした今日子さん。

2人目は、一度記憶をリセットするべく、隠館氏の家で眠った翌日の今日子さん

 

その2人の今日子さんの態度の変貌っぷりが楽しい。これが、「婚姻届」の魅力である。

1日目の今日子さんは、隠館氏に対して嫌悪感を抱いている。若い女性の身元調査を若い女性に依頼している隠館氏を変質者だと思ってしまったのだろう。ありとあらゆる方法で嫌悪感を隠館氏に伝える今日子さんが可愛い。

隠館氏の発言のすべてに対し、悪意をもった解釈をしている今日子さん。

ビルの警備員(守さん)に出動の可能性があると注意を促す今日子さん。

保育園に一人娘を預けているという露骨な嘘をつく今日子さん。

 

しかしさすがは西尾維新である。このままでは終わらせない。「ツン」がきたら、次は「デレ」が来るのが物語における女性の描き方のセオリーだ。

 

で、2日目の今日子さんの話に移る。謎が謎のままうつらうつらとしている1日目深夜の今日子さんは、翌日の今日子さんに解決篇を託すこととする。

で、その際にある仕掛けを施す。シリーズお馴染みの身体へのメモトリックである。

リセットされた状態の記憶に新しい情報を刷り込むために使うのだが、そのメモに「隠館厄介大好き」と施しておいたのだ。モチベーションが上がった状態の方が謎の解決に近づけると思ったからとのこと。

 

で、その翌日の今日子さんがすごい。

顔は赤らめる。度重なるスキンシップ。言葉の端々に織り交ぜられた好意。

基本的に他人行儀な今日子さんが(そりゃ彼女にとって誰しもが初対面なのだから、当たり前だ)、心を完全に開いて、好意を示しているのである。隠館氏は「努力とは無関係に夢が叶うと空々しい」と言っているが、読者にとっては関係ない。

とにかく、女性として男性に接する今日子さんが見られるのである。

つんとした取っつきにくいクラスのアイドルが、急に女の子らしい仕草を見せたときの感動に近しいものがあった(学生時代にこういう例えをしたかった。もう僕は社会人だ)。

 

ディテールは書かないが、ツンからデレに急落する今日子さんを楽しめるのが「婚姻届」。それだけ頭に入れておいてほしい。

 

オチも秀逸

まぁ今日子さんが可愛いということが言えればこの記事の目的は達成したも同然なんだけどさ。西尾維新作品ってオチの一文が秀逸なことが多いんだけれど、「婚姻届」もとても良い一文で〆られていた。

 

保育園にいる一人娘の嘘について前述したが、それについて隠館氏の「もうあんなに悲しい嘘はつかせない」という決意で幕を閉じる。

当然っちゃ当然なのだが、デレモードの2日目の今日子さんは、隠館氏を好きな演技をしていた。そりゃ文字情報で自らの感情までは支配できないだろう。

つまり、実は「婚姻届」で隠館氏が接していた今日子さんは、1日目も2日目も共通して嘘で塗り固められた人物だったということ。それに対して、この物語の総括として、「あんな嘘だけは聞くのはごめんだ」と締めくくっている。

 

隠館氏、イケメンである。実は囲井さんへのプロポーズの断わり方も、なかなかカッコいいのでこちらも刮目していただきたい。

「婚姻届」では報われなかったけれど、「旅行記」でやることやってるっぽいから、まぁ彼も決して不幸なだけな男ではないよね。

 

今日子さんも魅力的だったし、隠館氏もかっこいい。偽りではあったけれど、恋やら愛やらは人の魅力を引き立たせる力があるもんなんでしょうね。

 

というわけで、「掟上今日子の婚姻届」感想でした。