【こころに剣士を】師弟関係を描くのに、フェンシングという競技は画面映えする(感想:後半ネタバレ)
あけましておめでとうございます。
新年一本目の映画は昨日見てきた「ポッピンQ」だったのですが、まずは昨年最後に見た映画、「こころに剣士を」の感想を書いていきます。
めちゃくちゃいい映画だった。「2016年良かった映画まとめ」を暇すぎたクリスマスイブに書いてしまったことをしっかりと後悔した。
↑これに入れてあげたい映画。僕がクリスマスにちゃんと予定を入れていれば、しっかりと入っていた。非リア充は悲劇を生む。
閑話休題。「こころに剣士を」の魅力を書いていきますよ。
どんな話?
あらすじはこちらをご確認ください。ストーリーの大半が書かれているので注意。
史実を元にした映画で、実在するフェンシングの指導者が主人公のモデルであるようです。
舞台は1950年代初頭のエストニア。第二次世界大戦中はドイツ、大戦末期からはソ連に支配されていた国。
主人公エンデルはソ連の秘密警察に追われており、身を隠すために小学校の体育教師として田舎町ハーブサルに赴任する。
元フェンシング選手のエンデルは小学校で子どもたちにフェンシングを教えることとなります。
フェンシングを通じた、エンデルと子ども達の交流を描いた物語です。
フェンシングを通じて、成長していく子どもたち。そして変わっていくエンデル
スポーツを題材にした作品は、分かりやすい。
そのスポーツに打ち込んでいき、勝負に挑み、勝ったり負けたりしながら成長していく彼らを描く。
おそらくスポーツを題材にした映画に我々が期待するのはそこだし、それを過不足なく描けていれば我々も満足するだろう。
そういう意味では、「こころに剣士を」はスポーツを扱った作品らしくない。題材としてフェンシングという競技があるが、この映画の本質はフェンシングを通じて、それぞれ問題を抱えた教師と生徒が、対話をする物語だ。
もちろん、物語で大きな変化を見せるのは主人公のエンデル。彼が子ども達にフェンシングを教えることで、自分を殺し逃げ続ける彼自身の生活に疑問を持っていく。
そのファクターとなるのが、子ども達がフェンシングの技術を身に着け成長していく過程なのだ。
エンデル自身が愛したフェンシングが、子ども達が抱える問題に立ち向かう希望となっている。その確信が、彼を変えていく。誰かのために尽くすことで、自分も救われているということに気付くことはよくあるけれど、この映画のテーマはそこにあると思う。
ちなみに、エンデルがフェンシングを教える子ども達はたくさんいるのだけれど、この物語の主要人物として登場するのは「マルタ(女の子)」と「ヤーン(男の子)」。「マルタ」がエンデルの変わるきっかけを常に作っていて、「ヤーン」はフェンシングに熱中することで、自らの家庭の問題を乗り越えていき、希望を掴み取る役割を担っている。
素晴らしい分業制である。
フェンシングを物語の中心に据えた意味(ここからちょっとだけネタバレ)
スポーツものらしくはない、とは言ったものの、やはりこの物語の良さはフェンシングに支えられている。
物語のクライマックスにマルタやヤーン達生徒の試合シーンを置くことで、明確に子ども達が成長したこと、そしてエンデルが同じように変化したことを描写していた。
迫力あるフェンシングの試合だからこそ、彼らの変化が劇的に描写出来るのだ。スポーツでなければいけない理由はこそにある。
そして、ここでタイトル回収。フェンシングという競技は師弟関係を描くのに、とても画面映えする。
常に教える側と教えられる側が向き合い、2人の距離を同じまま保ち、時には距離を縮め、離れ、ということを繰り返す。「誰かと向き合う」という表現はよく見るけれど、それを絵として美しく、凛と映すことが出来るのは、フェンシングならではの魅力だ。
試合シーンの秀逸さ(ここから完璧なネタバレ)
最後に、マルタとヤーン含む生徒達が優勝をかけて試合に臨むこととなるが、このシーン、とても熱かった。手に汗を握ってしまった。
ヤーンはある意味、試合シーンまでに役割を果たしているので、ここではあまり活躍をしなくていい。
補欠として大会に参加し、優勝が決まる試合に急遽出ることとなったマルタが、エンデルに「一緒に闘って」と話しかけたマルタこそが、この試合の主役だ。彼女の真直ぐな性格や剥き出しになった闘争心を、最後の仕合では良く描けていたと思う。
自信なさげに試合に挑み、点数を取られてしまうマルタ。
攻めなければ負ける状況となり、自らを奮い立たせるマルタ。
勝ちを確信している相手チームの選手とコーチ?を睨みつけるマルタ。
そして、しっかりと勝利を収めるマルタ。
完璧な主人公である。ここでちゃんとスポーツものらしい熱さを描けていたのはポイントが高い。
ポスターのセンターを飾るだけある。
だけど、ヤーンも前面に押し出してあげてよ、って僕は思う。